胃腸が銀杏に響く

ヘンゼルとグレーテル的夢の軌跡

第1.5話 ジャンプへのネーム持ち込みと課題点(2)

 8連勤。もはや19歳の大学1年生がこなすスケジュールではない。

 朝から講義に出席し、空きコマはサークル活動、4限が終わり次第22時までバイト、これを平日は全て行う。目を瞑り、もう一度開けば日付が変わる。時間感覚はとうに流れて消えたのだ。

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第1話 ジャンプへのネーム持ち込みと課題点(1)

 この1週間で色々変わった。

 大きかったのは金銭面だ。今は奨学金+バイトで生活費を賄っているが、来期から学費も工面しなければならなくなった。ほぼ勘当だ。

 それに加え父が危篤になった。庭の剪定作業中に脚立から落ちるというどう考えても自業自得だが、数か月の入院を余儀なくされ、これで僕に対する金銭的なフォローが絶望的になった。

 家族構成を暴露すれば、母親が脳梗塞の後遺症で半身不随、祖母も玄関で転倒し体が不自由、残る妹は地元の専門学校に進学が内定し、来春に自動車免許を取るらしい。

 ふざけるな。どう考えても「帰れ」の状態だが、帰ってもすることが無いし人手と認識されれば大学に戻れなくなる。金の目処も立ってない。ほぼ片親なのに片親では無いから奨学金も授業料減額も無い。人を人として認識してないと思われてもしょうがないが、それは人間としての余裕がある時だけだ。不安で押しつぶされそうになって、先ある若者が未来を失いかけている状況では、人などただの手段に過ぎない。

 風邪も引き、スマホも割れた。母校はセンバツ出場を決めたらしいが。

 

 そんな中、初めての持ち込みに行った。

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第0話 ヘンゼルとグレーテル

 アジカンが好きで、マジックディスクを流して眠りにつくことが多い。個人的に彼らの最高傑作だと思っていて、音楽性の暴力からオルタナロックの世界を一直線に受けられる。まさに恵みの雨だ。暴風雨に近いが。

 雨が止んだかそれとも止まずか、最後の「ソラニン」が心地良い。変えようとした現実を変えられない絶望感が少し、ほんの少し和らぐからだ。夢の世界に浸るためには、殺意を露わにして満員電車に乗ったり、死んだ目をして本にカバーをつけたりする現実から目を背けなけれなならない。

 ただ、それも束の間である。4分半の曲と少しの余韻が終われば、また現実という名のセカイの一面に向かい直さなければならない。鳥取から大阪に来て、大学生活するために、親元から離れて、ただの一面を何度も見つめる。単位、理想との乖離、バイト、奨学金、サークル、飲み会、全部同じだ。子供が等しくおもちゃ箱に放り込む、そこに価値の優劣は無い。

 いつでも帰れるようにと、交通費分の貯金はあった。それもCDか本か、また別の何かに消えた。自分が一番分かってる筈だった。行く道にパンを千切って捨て帰る道標にしようが、清掃員がゴミ箱に入れるかカラスが餌にすることぐらいは。

 だから、現実から目を背けても、後ろ向きには歩けないことは、理解しなければならなかった。幸い、時間が流れてくれるからそっちの方向には勝手に進んでくれる。迫りくる物全てに適当に扱っていれば、良い会社に勤め良い嫁を持ち、良い人生として終えることが出来るかもしれない。それはそれでいいかなって。

 だから、浅野いにおが「ゆるい幸せがだらっと続いたらきっとサヨナラなんだ」とか書いても余所は余所は余所は余所は余所は余所は余所は余所なんだ。

 

 だといいかなって。

 漫画原作者になります。

 レールから外れたいと思って、結局外れないのかなと思って。明日も一限からあって、サボることはできないけど、夢を追う程度には外れたいんだと信じたい。自分を。

 諦めた夢はもう一度、微笑むのかって。多分、夢を追いたいんじゃなくてモブから脱却したいんだ。心理学部だからその程度は分かる。嘘だけど。